2018年5月16日水曜日

【歴史本】魏志倭人伝の世界【自著紹介】

 さて、自著にて参照した著作紹介の3回目は、三木太郎の「魏志倭人伝の世界」です。
昭和五四年の著作ですから、非常に古い本ですし、どマイナーな本といって良いでしょう。

 内容的には、100%の文献的考察からの邪馬台国論、ということになります。本書の行論の特徴としては、まず魏志倭人伝の版本のうち、一般に善本とされる「百本」ではなく、「太平御覧」所引のもの(所謂、御覧魏志)が、一番本来的な「魏志倭人伝」の形を伝えているのではないか、というところから論述が始まっていることになります。

 そして、なぜ本書をこの場で紹介しようと思ったかと言いますと、それが「投馬国」の比定地にとって非常に重要な推論を含むからです。つまり、御覧魏志では、百本にある「投馬国」に相当する部分に、「於出馬国」とあり、御覧魏志を重視する立場では、その比定地が、自ずから「イヅモ」と定まることになるからです。私の「継続としての日本古代史」では、「魏志を日本海ルートで畿内説に読む」というところが基本的なスタンスになっています。

 他にも三木氏の論考は、「卑弥呼以死」を「卑弥呼すでに死す」と読んだり、「倭国大乱」についての解釈(後漢書の美文化・虚飾と考える)であったりと私の持っていた考えに非常に近いところがありました。私が日本海ルートをとるようになったのは、本書の影響というわけではありませんが、御覧魏志を重視するだけでほぼ同様の結論にたどり着くのですから、試しにアマゾンで入手して読んだ時には、なかなかに驚きました。

 アマゾンで探すと非常に簡単・かつ安価で入手可能ですので、古い本ではありますが一読されると面白いとおもいます。

【歴史本】鏡が語る古代史【自著紹介】

 さて、参考本を紹介にかこつけて自著「継続としての日本古代史」を広告するシリーズも4回目となりました。今まで文献学と考古学と交互に紹介していますので、今回は考古学の順番になります。

 今回紹介するのは、中国銅鏡研究の第一人者と言っても良いのではないでしょうか。
岡村秀典先生の「鏡が語る古代史」になります。本書で非常に興味深い点は、贈答品として使われたことなど、鏡文化一般についての概説であるその前半部分になるかと思います。どうも後半は、銘文などの漢詩解釈が中心になり、しかも神獣鏡=卑弥呼への下賜鏡という著者の別の角度の結論が見え隠れしてしまっていて、どうも消化不良になるように感じます。どうせなら、中国にての漢・魏晋鏡の紹介に徹するか、また神獣鏡=卑弥呼への下賜鏡ということを言いたいなら、もっと最初から日本での出土銅鏡に的を絞っても良かったのでは思います。

 全般的に言えば、記述自体は非常に丁寧で、少し読むのに疲れるところはありますが、鏡を巡る中国での文化史として非常に参考になります。個人的には徐州の鏡が、三角縁神獣鏡の手本となっている点などは非常に明確に論じられており、それから考えると宮崎市定の景始四年銘鏡についての考察がおおよそ正鵠を得ているだろうと思うと、まさしく歴史ロマンそのものでもあり、非常に嬉しくなりました。ただ、私が倭国でもっと大切な王権の象徴と考えている内行花文鏡についての考察がすっぽりと抜けて落ちている点が大いに不満という所でしょうか。

 岡村秀典先生は、幻の夏王朝の遺跡とも言われる二里頭遺跡の研究も行われており、NHKスペシャルにも出演されていましたので、個人的にはこちらも非常に興味があります。今度時間があるときに、その関係の著作も読んでみたいと思います。