2016年7月30日土曜日

【第八回】第一次大戦はなぜ始まったのか【近代史】

第八回は、長い題名のこの本である。


歴史ある事件の「何故」を問うということは、どうしてもその事件の「前段」を知るということが不可欠になってくるし、ある意味その「前段」がわかればその「何故」も自然にわかってしまうことが多い。


第一次世界大戦については、教科書にはオーストリアの皇太子が暗殺された「サラエボ事件」を契機に全面戦争が始まったと書いてある。オーストリアとセルビアのイザコザで、ドイツとフランス、ロシアが戦う羽目に陥るのである。そうなれば、ドイツとオーストリアの関係を掘り起こすところから始めないと、何故にはたどり着けないのである。


そういう意味で、本書はその表題にも関わらず、「何故」第一次世界大戦が起こったか、という問いへの応答は、実は直截的には記載が見当たらない。実際それを本書に求めると肩透かしに遭う。
ここにあるのは、「如何」に始まったかという詳細な事実の積み重ねである。


私がこの本を手に取ったのは理由があって、現在、まさに「ブルーチーム」「レッドチーム」と呼ばれるように両陣営に分かれてのイザコザが始まりかけているからである。
日本では、「先の大戦を痛切に反省して、、云々」という言説をよく見かけるが、これは、第二次世界大戦のことを言うらしい。しかし、第二次大戦は、一次大戦後にできた枠組みの反発にほからないのであって、本当に世界大戦について真因にたどり着くには、どうしても第一次大戦の契機について考える必要があるのではないか。


また現在の日本の立ち位置を考えても、自ら孤立に嵌まり込んでいった第二次世界大戦よりは、第一次大戦の当時のほうが近いものがあるのかもしれない。


本書は小さな事実の積み重ねが多く、人名も正直、日本人には覚えにくく、お世辞にも読みやすい本とは言えないかもしれない。アマゾンの書評にも悪文とある。それでも誰も望まない戦争が如何に始まったかを知るには、よい本かもしれない。何故は自分で考えるための資料として一読されるのも一興ではないだろうか?











2016年7月17日日曜日

【第七回】 千字文 【語学】

さて、バランス的に今回は、語学の本の紹介、中国語の
テキストとして、「千字文」を紹介いたします。


お勧めしたいのは、中国語の勉強を一通り勉強し終えた
レベルの方、中国検定なら3級合格レベルから2級を挑戦して
いるぐらいのレベル方にお勧めです。


千字文は、何がいいかといいますと、それが日本に初めて到来した
中国語のテキストでもあるという点です。


https://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%8D%83%E5%AD%97%E6%96%87


その辺の薀蓄はWikiでどうぞ。
何しろ、千字文は、中国語(漢文ですが)の初学者のテキストなのです。
漢字到来の際の日本人が勉強した教材をそのまま使うって、
何かトキメキませんか?(ませんよね?たぶん著者が異常です。)


それともかく、千字文がよいところは、そこに中国典故が惜しみなく
盛り込まれているところです。


ピンインを調べながら、読み進めれば、言葉の背景にある文化から
勉強することができるのです。岩波ならそれを格調高い小川環樹博士の
解説付きで読めるのですから、学ぶ楽しみ、ここに至れりといった感がありますね。


ちょっと妙なテンションになりましたが、それほどにお勧めなのです。







【第六回】 高橋是清 【日本近現代史】

今回取り上げたいのが、だるま宰相、こと、高橋是清です。


高橋是清翁はとにかく波乱に満ちた生涯を送っているので、ストーリーを作りやすいことも
あるのか、最近はNHKのドラマで彼が主人公になったりと、
翁への再評価というものが進んでいる表れなのかなと思っています。


「財政家」として活躍し、たびたび日本の窮地に現れた翁ですが、
最後は、日本軍部への膨張に抵抗したことによって、2.26事件にて凶弾に
斃れて終わります。


そんな高橋是清翁ですが、私が読んだのは、中公新書の一冊。


翁の人生の劇的な終着点、そこに至る過程を一つ一つおさえていくためには、
日本近現代史の背景への理解が必要ではありますが、
仮にそんなハードルは全部なぎ倒しながら、遮二無二ながら読み進めたとしても、
十分、翁の波乱の人生と、その健全な人生観には、共感できるところが多いかと思います。


財政家としての彼の活躍を描いているので、当然その方面から日本の近代化を
通史的に見れることも本書の特色といえるでしょう。




2016年7月10日日曜日

【第五回】  史記  【中国史】


第五回は史記です。

中国の歴史はこの書から始まったといえる、中国史において
最重要の書と言って差し支えないでしょう。

概説としては、貝塚茂樹博士の中公新書がよろしいでしょう。
冒頭から、文選にもある「報任少卿書」を小説仕立てにして
紹介されており、グイグイ引き込まれていきます。


くさい言葉にはなりますが、ここにはヒューマンドラマとしか言いようのない
物語があるのです。その点、もっと堪能するなら、歴史書ではないですが、
小説家 中島敦の「李陵」がよいでしょう。


それから、忘れることができないのは、我らが宮崎市定翁の「史記を語る」です。
読後感の爽やかさは、吉川忠夫の名解説と重なって、翁の著作の中でも
屈指のものがあるように思います。

史記はなにせビックネームの書ですから、関連書籍も数限りなく
あるはずです。未読の人は是非一度手に取ってみてください。


















2016年7月9日土曜日

【第四回】 無限論の教室 【哲学】

 第四回は、少し趣を変えて、哲学者 野矢茂樹の「無限論の教室」を紹介したい。


どうも哲学というと重苦しい語感があるのだが、氏の哲学書に関しては、あくまで知的好奇心の発露というか、まぁ、きわめて軽妙で読みやすい。その中でも特に出色の出来といえるのが、頼まれもしないのに個人の趣味で書き上げてしまったという本書である。


 本書の内容のほうはというと、数学と哲学の狭間、数理哲学が守備範囲となるのだろうが、実は、そんなことはどうでもよく、あくまで「考えること」の楽しさが満ち溢れている一書である。もちろん、実生活においては特に必要があるわけもなし、ここにあるのは、極めて純度の高い、「分からないこと」への挑戦といえよう。
 哲学とはそもそもそういった学問であるかもしれない。



【第三回】 大人の英語発音講座 【語学】

語学系の本も紹介しておきましょう。
まずは英語の本ということで、とりあげるのが、
「大人の英語発音講座」です。


さて、日本の英語教育、中学校から大学まで全部で
10年習っても、一向に話せる気配がありませんね。


それはもちろん、実践でつかう機会が少なすぎるというのも
ありますが、そもそもが日本語と英語の距離が離れすぎている
ということが大きな原因としてありそうです。


そのあたりの事情が結構分かりやすく説明があるのがこの本なのです。


アナニア、アナナネ(グ)


この英語、わかりますか??
実はこれ、 An onion and an egg. を「日本人の耳」で聞いたもの。


日本人の耳はどうしてもこう聞こえるように「出来上がって」
いるんですねぇ。


そんなこんな事情が分かりやすく書かれています。
英語リスニングが苦手な人には必読書です。



【第二回】 古代エジプトうんちく図鑑 【世界史】


 第二回は、奇書といってもいいでしょう。古代エジプトうんちく図鑑であります。
 古代エジプトって、学校で触った程度で、そのままという方が日本人の99%でしょう。
が、それをそのまま放置するのはもったいなすぎます。歴史の古さから言って、人類の文明・歴史は、メソポタミアかエジプトのあたりから始まってる可能性が高そうなんですよ。まぁ一元論ですね。


そういう意味では、エジプト文明について、これだけの古い時代のものがこれだけ残っているのはスゴイことなんです。日本で最古級の文物といっても弥生時代ぐらいまでのもんでしょう。せいぜい2000年です。縄文時代については、個人名が特定できるような文物が出てくるなんて、考えることもできないわけです。それがエジプトでは普通にBC3000年とかありますからね。5000年前です。すごいです。キテます。





 そういったわけで、素人マンガ調で、面白おかしく超絶DEEPなこの一冊、お勧めしないわけにはいかない。

【第一回】 大唐帝国 【中国史】

 読書のレビュー第一回は宮崎市定「大東帝国」


 日本の中国史家で、最後の大物ともいわれる宮崎市定。読んで楽しい歴史本の代表作といっていいでしょう。僕は、背表紙が壊れるぐらい何度も読みました。紛失以外で2冊目が必要な本は、この本ぐらいなものです。


 大唐帝国と書いてはいるものの、副題の「中国の中世」とあるように宮崎翁の考える中世全般についての概説・通説の書というのが実態ですね。後漢末から三国志、魏晋南北朝、隋唐、五代十国まで射程にはいっています。
 その中には、残酷物語もあれば、悲哀に満ちた物語もあり、そして蓋世の英雄たらんとした武将や非運に泣いた名臣、さらには、自己一身の利益のためだけに動いた悪者まで、さすが中国史といった人間ドラマに溢れています。


 これが史実で歴史なんだから、タマラナイです。