2016年9月10日土曜日

【第十三回】 時間の分子生物学 【生物学】

 今回は少し趣を変えて、睡眠についての新書を紹介します。


 たまに時間について、不思議に思うことはありませんか?
 僕が時間に関していつも不思議に感じることは二つあって、一つは、腕時計をしている時に、何気にパッと見た瞬間、秒針がとまったのかなと、あれっ?っと、かなり訝しく感じるような感覚に陥ることがあることが一つ、そしてもう一つは、五月蝿い目覚まし時計を仕掛けておいても、目覚ましが鳴る数分前に目を覚まして、目覚ましを止めることが出来ることが結構あるということです。(そんな時は、えてして、結局二度寝して、えらい目に遭う)


 この本では後者の現象の不思議についても語っています。とにかく、睡眠は、当たり前のようでいて、非常に謎が深い現象のようです。どうも睡眠とは、単に体を休める以上のもっと積極的な高次の機能であることが、この本からわかります。ザックリと所感を述べると、睡眠は単に休むというよりは、体と脳のメンテナンスを行っているというイメージですね。


 人間、いつまでも若くありたいものですが、そのためには、睡眠というは、免疫系などにも密接な関係があるようで、睡眠が体に備わる自己メンテナンス機能に絶対的に必要なこともわかります。レム睡眠中にみる夢なんかも、その日に起こった嬉しかった体験や怖かった体験などを整理して、脳のしかるべき場所に経験として納めて言っているのでしょう。ですので、受験生なんかが、受験前に必死になって睡眠時間を削って徹夜で勉強したりしますが、そういうのっていうのは、睡眠の積極的なメンテナンス機能から考えれば、かなり効率が悪いんでしょうね。睡眠時間だけはしっかりとって、寝ている間に記憶を整理していく機能をフル活用したほうが、恐らくは効率が非常にいいのだろうと思います。


 この本に関して言うと、後半に出てくる「オレキシン」という脳内物質が非常に印象的に残ります。この物質一つで、食欲と睡眠に大きな影響があるという記事です。よく、お腹がすいて寝れないことがありますし、逆に、お腹が空いている空腹感というのも、ずっと我慢していると気にならなくなってくることが実感としてあります。これなんかも、空腹を感じされるオレキシンという物質が出て、覚醒を促すと同時に、ずっと覚醒し続けても、体をメンテナンスしないわけにもいかないので、オレキシンの分泌が一旦は終わって、空腹が気にならなくなって眠れてしまうという現象と非常にピッタリ理屈に合うと思います。


 まぁ、ちょっと長くなりましたが、この本は、単に知的好奇心が満たされるだけでなく、自身の「健康寿命」を伸ばすこともできるようになるじゃないのと思わしてくれる良書ですね!



2016年9月3日土曜日

【第十二回】 ローマ帝国 -その支配の実像- 【古代ローマ】

 読書案内の第12回目は、ローマ帝国についての本です。


 といっても、これは少し羊頭狗肉の本といっても過言ではありません。新書一冊でローマ通史について語ることは不可能ですし、それは著者の力量の問題ではなく、分量の問題です。そもそもが、この本は、ローマ「帝国」について語るとっているのに、主題としている時代は共和制ローマの話なのです。それが、なぜ「帝国」についての話になるのか、つまりは、ここには作者のレトリックがあり、ここでいう帝国とは、「帝国主義」という場合の帝国なのです。「覇権主義」と言い換えることも可能です。つまり、このタイトルから言いたいことは、共和制ローマといっても、十二分に覇権主義国家の性格があったということなのかもしれません。事実、この本は、共和制ローマでの「命令権(インペイリム=インペリアリズム・帝国主義の語源)のあり方」が主題ですので、これは作者による意図的な「羊頭狗肉」と言えます。
 この本は、表題の付け方にも表れているように、「共和制と言いつつ、実は覇権主義だった」というような告発本の要素もあるように思うので、ある意味少し「左」のかかった本で、それはそれとして、ある資料を論拠に、それ(命令権の原始的な姿)を非常に明確に論証されていくので、それも教養的には非常に面白いのですが、実はそれを論じるための資料が出色の出来なのです。それは、ローマ通史のようなものとは、まったく違います。実は、この本は、雄弁家として高名なキケロによる「ウェレス弾劾演説」の解読本なのであります。そして実は、このウェレスを弾劾する裁判でのキケロの用意した周到な訴訟資料が、なんとも非常に面白いのです。ここでは、ウェレスは一言でいうと、シチリアでの悪代官なのです。この悪代官はたいそうな剛の者で、元老院の日程調整や人事を賄賂の実弾にて動かし、何とかキケロの追及を逃れようとします。そして覆い隠さるべからぬ悪行を、キケロがローマの法廷にて暴いていく、そういう勧善懲悪の胸のすくストーリーがあるのです。正義感に沸き立つ若手政治家と、老獪極まる実力者、その対立の熱いストーリーを資料として、当時おける「支配の構造」を分析しようと試みる筆者。筆者の冴えた筆致も手伝って、当時の支配の実像が、際立って立ち上がってくるようです。
 古代ローマは、材料としては日本人好みであり、巷間にはたくさんの面白い本があります。本書は、内容的にかなりマニアックで偏っているところがあるので、古代ローマについて、初めて読むのには全く適していないと思いますが、塩野七生女史のローマ人の物語などで、ローマについて興味を持った人なら、その次に読むのに非常に適していると思います。